靴を見つける。4人目の物だろうか。
私は木にぶら下げられた靴を無造作に袋にしまうと、新人の三上の元へ向かった。
短期間に不審な行方不明事件が多発したとの報告を受け、私たちはこの山へ調査に来た。
村がこの山を立ち入り禁止にするまでの1ヶ月間。その間に6人。
それぞれが登山装備をしていた。そもそも村民が林業を生業としている。
村民にとっては庭みたいなもののはずだ。
そして私たちが調査に入ってすぐ、靴があった。そして近くの木に服。
「矛盾脱衣ですかね」
現場に到着したどちらかが言った。
しかし、装備品を置いておく必要はない。そもそも遺体など、持ち主の姿も近くには見当たらなかった。
そもそも夏の山で、林業者が陥る状況ではない。
次に考えられたのは熊などの野生動物に襲われた線だ。
現に近くの民家では熊の目撃情報もある。出くわす可能性は十分にあるだろう。
しかしそれならば、衣服がもっとぼろぼろになっていてもおかしくない。
あたりに血痕もなかった。
そして何より、全ての衣服が木に吊り下げられていた点が不明であった。
人為的な行動であることは明らかであるため、何かしらの事件性が疑われたが、第三者の痕跡も見当たらなかった。
現場はまるで、人体のみが消えてしまったかのようだ。
「大神さん、これで6人分の遺留品が集まりましたね」
三上がテントに自らが見つけた衣服も運び入れる。
「何か不審な点はあったか?」
「いえ、こちらは特に。強いて言うなら全て木に吊り下げられていました」
私はため息を吐くと、持参した水を飲んだ。
私たちが早朝調査に入りすぐに遺留品は、村民が利用する山道に続くように見つかった。
おかげで昼までには、全ての遺留品を集め終えることができたのだ。
「少し早いが、昼にするか」
三上が頷くと、村に入る前に購入したコンビニのおにぎりを取り出した。
「おいおい、2人分にしては量が多過ぎないか?」
「あれ、そうですね。買いすぎたかな」
三上は首を傾げると、取り出したおにぎりを一つしまった。
私たちは昼食を取ると、遺留品を広げ、順に並べ替えた。
服、ズボン、靴と並べる。
揃う、が何か違和感を感じた。
「おかしいな。これは」
「そうですか?」
「そうだろう。服装がまちまちじゃないか。林業を生業としているなら、あるはずのヘルメットが3つしかない。こちらの服装も、上下のサイズが合っていないんじゃないか」
さらに手前にあるズボンを指で摘んで見せる。
「第一、このズボンも新しすぎる。1人、新品に変えたというならそこまでだが、そちらの2人の服もズボンも新しい。山に入る時期が違うのに、新品ばかりというのもおかしくないか?」
「たしかに。集めるときは手分けして、バラバラだったので気づかなかったですね」
と、三上の言葉を聞きながら気づく。
背筋を冷たい汗が流れた。
「すぐ山を出るぞ。荷物まとめろ」
「え、急にどうしたんですか」
「狂言だ」
私は無造作に荷物をまとめると、三上も慌てて帰り支度を始めた。
「狂言?狂言って行方不明がですか?」
「ああ、行方不明者が出たという話は村からの自己申告。誰が行方不明になったのか、具体的な話はない。」
「村全体でですか?」
「わからない。しかし、そもそもこの山に不慣れな私たちが、たった数時間でこれだけの遺留品をすぐ集められるわけがない。山道においたのは、私たちがすぐに見つけられるように。吊るしたのは見つけてから回収まで、少しでも時間がかかるようにだ」
「しかし、何故僕たちをここに?」
「知るか。それより急げ。何されるかわからないぞ」
片付けもそこそこに私たちは下山を始めた。
私たちの焦りとは裏腹に、山から村への道のりは、少し迷いはしたもののスムーズだった。
私たちは村の入り口の、交番近くに停めた車へと着くと車体を急いで確認した。
異常はないようだ。
車に入り、エンジンをかける。問題なくかかる。こちらも異常はない。
三上もすかさず後部座席に乗り込んだ。
私は車を急発進させると、街へ続く一本道を走り出した。
道中のお社の前を抜けると、空気が軽くなったような気がした。
お社にいる神主のような人物が、私たちに深々とお辞儀をするのがバックミラーに映った。
「なんだったんでしょう。あの村」
「さぁ。もう2度度行くことはないだろうな」
私はぶっきらぼうに答える。
あの村について調べれば、何かわかるかもしれない。
だが、リスクを冒してまでその情報を知る必要があるのか。
私は助手席にあった誰のかわからないタバコに火をつけ、口に咥えた。
「そのタバコ、吸っていいんですか?怒られますよ」
「誰に?」
「さあ…」
曖昧な返事をする三上に苦笑いしつつ、私たちは帰り道を急ぐのだった。
コマの書き散らし
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